小説レビュー

[小説紹介]村上龍/歌うクジラ 盾シールド 半島を出よ 55歳からのハローライフ

村上 龍(むらかみ りゅう、1952年2月19日生まれ )

日本の小説家、映画監督、脚本家。血液型はO型。長崎県佐世保市出身。武蔵野美術大学在学中の1976年、麻薬とセックスに溺れる自堕落な若者たちを描いた『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞、及び芥川龍之介賞を受賞。ヒッピー文化の影響を強く受けた作家として、村上春樹と共に時代を代表する作家と目される。代表作に、『コインロッカー・ベイビーズ』『愛と幻想のファシズム』『五分後の世界』『希望の国のエクソダス』『半島を出よ』など。約18年間芥川賞選考委員を務めていたが第158回を以て退任した。
自身の小説を元に映画製作も行なう。1999年より、日本の金融・政治経済関連の問題を考えるメールマガジン『JMM』を主宰、以後、暗部に潜む政治経済関連の問題など時事報道に対してコメントするなど、文壇以外の世界にも積極的に関わっている。(Wikipediaより)

歌うクジラ(上・下)

2022年のクリスマスイブ、ハワイで歌うクジラが発見された。そのザトウクジラは、グレゴリオ聖歌を繰り返し、正確に歌うのだった。

そして100年後の日本、人類は遂に不老不死のSW遺伝子を発見した。

SW遺伝子は一部の選ばれた人間に使われたが、それでは人間が増えすぎるので、犯罪者には急速に老化が進む方法が取られた。文化経済効率化運動により、食事や笑顔や敬語は悪とされた。

最下層の犯罪者が住む九州北西部の新出島に住む、敬語を使う15歳の少年タナカアキラは、SW遺伝子の秘密を入れたマイクロチップを、ある人物に届けるため新出島を出ようと決心する。アキラの冒険の旅が始まる…。

i Padで先行発売され、話題となった本作。読みやすさを考慮してか、一節が短く、細切れに読むのにも便利だが、文体は決して読みやすくない。これはもちろん、わざとなのだろうが…。

敬語は崩壊し、美しい日本語は消え、助詞がおかしくなったセリフが連続して出て来ると、意味を追っていくのが少し辛くなるかも。しかし、それでもなお、本作には読む者を惹きつけるパワーがあるのだ。

『五分後の世界』や『半島を出よ』にも見られる、村上龍の圧倒的な想像力に面白く牽引されるが、この不思議な言葉遣いには、ついて行けない人もいることだろう。荒唐無稽とも言えるまったく新しい世界が広がっているのだから。

敬語は悪とされた未来。主人公のアキラだけが敬語を使う。効率で見れば敬語は無駄かも知れないが、そういう無駄なものが文化だろう。

不老不死も、人類の悲願の一つかも知れない。

しかし、それがかなえば人口が増えすぎて人類は亡んでしまう。

だから片方で、老化を進めて、早く死ぬ人間を作らなくてはならない。

このブラックユーモアのような世界…。

クジラの歌う、美しいグレゴリオ聖歌を想像しつつ、生きる意味を思う。

 

 

 

 

盾 シールド (はまのゆか/絵)

コジマとキジマの2人の少年は、家庭環境も性格もまったく違うが、なぜか仲が良かった。

成長するにつれ、2人はそれぞれの道を歩き出し、様々な壁にぶつかってゆく。

そのたびに2人が思い出すのは、少年時代、ともに訪ねた森の老人に聞いた「盾(シールド)」のこと。

自分の中の大切なものを守る何かが必要だというその言葉を聞いて以来、2人はずっとそれを探し続けていたーー。

盾とは何なのか。

その答えは読者1人1人に委ねられているが、つねに現代社会を見据えながら、文学の枠を超えて幅広く活動する作家が絵本で伝えたかったものとは…?

 

 

半島を出よ(上・下)

2011年4月、北朝鮮の9人のコマンドが福岡ドームを武力占拠した。

戸惑う間に五百人近い特殊部隊が来襲。想定外の出来事に、なすすべを知らない日本。

すでに財政は破綻し、経済力は低下、国際社会で孤立しつつあった日本を、決定的な危機に陥れた。

北朝鮮の特殊部隊、日本の「大勢」に入れなかった、入りたくなかった若者たち。

情けないほど視野の狭い日本の政府や官僚。すべてがあまりにリアルで、今のままいったらきっと日本はこうなってしまうだろう、と思わせて、怖い。

これはテロなのか。やってきた北朝鮮反乱軍は敵なのか。

日本、いや九州を救うことは不可能なのか。戸惑う民衆、阿る人々、そしてやるべきことを見つけた若者たち。

彼らの特技は爆弾作り、虫や毒を持つ蛙の飼育、テロの研究…。

壮大で緻密な物語に圧倒される。計算しつくされた計画、予想外の出来事がひとつひとつ着実に重なっていく。

すべては起こるべくして起こったのか。そして何が変わったのか。

 

55歳からのハローライフ

1976年に『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞し、衝撃的なデビューを飾った著者も、もう60歳だという。

老いを感じる年齢になったからなのだろうか、ある意味、村上龍らしくない。本作で描かれるのは、多分、普通の老いを前にした人間たちには、きっかけがあれば現実に起こり得る出来事だ。

54歳で離婚して、400万円の慰謝料をもらい働いてもいる中米志津子だが、だんだん貯金が目減りしていき、再婚を考える『結婚相談所』。

収入が安定した仕事もなく、将来に不安を抱く因藤茂雄が、ホームレスになった中学時代の友人に再会する『空を飛ぶ夢をもう一度』など、5編が綴られている。

50代、60代くらいの読者なら、しみじみと共感する短編集だ。