
資産家女性の養子になり多額の保険金を狙い殺人|高井凛容疑者
資産家女性の養子縁組届を偽造した疑いですでに逮捕されていた男が今度は、多額の保険金を狙った殺人容疑で逮捕された。
逮捕された容疑者は大阪・福島警察署の拘置所内で首を吊って自殺。
この衝撃的な事件を分かりやすく解説する。
2つの容疑

この事件は、高井凛(28歳)が起こしたとされるが、大きく分けて3つの容疑からなる。
1、養子縁組届けを偽造した誘因私文書偽造容疑
2、詐欺容疑
3、殺人容疑
一つ目の容疑は、容疑者が2021年2月、大阪府高槻市の高井直子さん(当時54)と養子縁組する際、養子縁組届を偽造し高槻市役所に提出した疑い。
容疑者は既婚者のため、既婚者が養子縁組するには配偶者の同意が必要なのだが、妻の署名捺印を偽造した疑いがあるのだ。
当時、容疑者は神奈川県川崎市に住んでおり自称・コンサルタント業の男で、旧姓は松田。
二つ目は、クレジットカードで8,000円バッグを購入したあ、後日クレカ会社に「身に覚えのない請求がある」と申し出て代金をだまし取った疑い。
自分ではなく第三者が購入したと見せかけようとしたようだ。
三つ目の容疑は、多額の生命保険金目当てに去年7月、高井直子さんを浴槽で溺死させた容疑だ。
養子となった5ヵ月後の出来事で、直子さんには高井容疑者が受取人となっている総額1億5千万円の生命保険が掛けられていた。
経過を時系列で見てみよう。
2021年2月 | 高井凜容疑者が高井直子さんと養子縁組。保険金約1億5000万円の受取人に変更 |
2021年7月 | 高井直子さんが自宅の浴槽で溺死。右手に結束バンドの跡 |
2022年7月 | 高井凜容疑者が「養子縁組届」への関係者の署名を偽造した疑いで逮捕 |
2022年8月 | 高井凜容疑者を直子さん殺害などの容疑で逮捕 |
2022年9月 | 9月1日、凛容疑者が留置場で自殺を図る。午前7時2分、ヒモのようなもので首を吊っているのを警察官が発見、心肺停止の状態で病院に緊急搬送。ICUで治療を受けていたが22時21分ごろ死亡が確認された。5日前から衣類を裂いて準備していたようだ。 |
容疑者と被害者の接点
容疑者とはどんな人物か。
関西名門私立の「関関同立」の一、の関西学院大学の附属中学からエスカレーターで大学まで上がり、卒業。
高等部時代は、「クオーターバック」で活躍し、日本代表にも選出されたが、大学ではけがのためチームを支えるスタッフに回ったという。
大学時代の同級生によると、容疑者は「人に好かれるタイプだった。でも今考えると見栄っ張りのところもあったし、負けず嫌いだった」
大学卒業後、外資系コンサルタント会社に就職。
2018年11月には、外資系の大手保険会社プルデンシャルに転職。
ここで容疑者と被害者の接点ができる。
容疑者が高井さんの生命保険契約を取ったのだ。
容疑者は良くも悪くも上昇志向が強く、保険会社で多くの契約を獲得するが、2020年3月インチキが発覚し、業務停止の懲戒処分を受け、同年6月に退職。
インチキとは、たとえば10,000円の保険契約を結んだはずなのに、カード決済された保険料は20,000円だったといった水増し請求だ。
結婚詐欺まがいの手法で契約を取ったりもしていたとも言われる。
営業成績は上がるが杜撰な騙し方で、当然苦情も寄せられる。
だが容疑者は自分がなぜ懲戒処分を受けねばならないのか理解できなかったそうだ。
こうした杜撰(ずさん)さは後の保険金殺人でも随所で見られる。
一方、被害者はどんな人だったのか。
都市銀行系の会社員で、30歳の頃、縁談があったが親族から反対され、その後はずっと独身で、祖父から受け継いだ家と預金など合わせて約1億円の資産があったという。
その資産に目をつけたのが松田容疑者だった。
20年来の友人という女性の話では、高井さんとは高井さんが母親を施設に入れる時に相談に乗ったりする仲だったが、養子縁組の話は聞いておらず、遺産は姪っ子に相続させると語っていたという。

容疑者プロフィール
名前 | 高井凛(たかい りん/旧姓 松田) |
年齢 | 28歳 |
身長 | 180cm |
出身校 | 関西学院大学(附属の中等部・高等部から) |
部活 | アメフト部(高校・大学) |
愛車 | ランボルギーニ |
職業 | 外資系コンサルタント会社→大手保険会社→コンサルタント |
犯行動機 | 派手な生活で金に困窮していたと見られる。 |
自殺 | 2022年9月1日、留置場で自殺を図り、心肺停止状態で病院に緊急搬送される。午前7時2分、ヒモのようなもので首を吊っているのを警察官が発見。病院のICUで治療を受けていたが同日22時21分ごろ死亡が確認された。 |

被害者プロフィール
名前 | 高井直子さん |
年齢 | 54歳(当時) |
職業 | 銀行系列の会社員 |
犯行動機はガールズバーの娘へのご執心?
都内のガールズバーで知り合った女性に入れあげ高級宝飾品やハイブランド品などを買い与えていたが、一方で職を失ったことで金銭に困っていたという。
容疑者は黙秘を続けているので動機は不明だが(2022年8月29日現在)、これが犯行の動機となった可能性がある。
杜撰(ずさん)なアリバイ工作

1、カツラなどの変装、女装
殺人事件当日、長髪のかつらで女装し、都内のマンションを出て、その後も変装を繰り返した。
高井さん宅付近の防犯カメラには何度も行ったり来たりする姿が捉えられている。
防犯カメラに映っている凛容疑者と見られる男が肩に掛けているバッグと似たものが、東京で凛容疑者のクレカで購入されていたことが分かっているが、容疑者はクレカが不正利用されたと苦し紛れの弁解をしている。
2、包丁の入ったバッグ
高井さん宅近くのマンションの駐車場に包丁が入った荷物を置き、管理人がそれ見つけるやあわてて「僕のです」と持ち去った。
3、スマホを自宅に置いて高井さん宅で犯行?
スマホの位置情報から犯行現場にいた証拠にならないようスマホも自宅に置いてきた。
しかし、高井さの右手首には結束バントが巻かれ、左手首にもバンドを巻いて圧迫されたような跡があり、体の一部にうっ血もあったことで警察から疑われた。
4、高井さんのスマホのメールを自動送信
高井さんのスマホのメールを自動送信するよう設定した疑い。
高井さんが亡くなった翌日、高井さんのスマホから容疑者のスマホへメールが送信されるよう予約設定したということだ。
自分が疑われないよう以上の工作をしたが、どれも杜撰で未熟で、かえって容疑者の疑いを深める結果となっている。
元同僚が、殺し屋を知らないかと聞かれたという話しもあり、実にお粗末。
容疑者が犯行によって手に入れたもの
容疑者が犯行によって手に入れたものは、高井さんの資産である預金5,000万円を含む資産約1億円。
これを使ったのか、犯行後、家賃数十万円の港区のタワーマンションに住み、車はランボルギーニを購入。
容疑者は高級車と一緒に写る写真をSNSに投稿していた。
容疑者のSNSにはハイブランドのバッグ、靴、寿司、高級肉などの写真も投稿されていた。
この辺りも警察や世の中を舐めているのかと思われる行動だ。
慎重な犯人ならば疑われないように派手な行動は控えるだろう。
高井さんに掛けられ受取人が容疑者に変更されていた保険1億5,000万円のうち、容疑者は5,000万円のみ受け取りを請求したが、保険会社に怪しまれ、手に入れてない。
容疑者は高井直子さんの死後、養子関係の解消を家庭裁判所に申し出ており、この行動も怪しまれる要因となっている。
警察が容疑者を殺人容疑で逮捕した決め手
容疑者を殺人容疑で逮捕した第一の決め手は、「事件当日の防犯カメラの映像」が、供述と矛盾していたことだった。
事件当日は「東京の自宅にいた」と答えていた容疑者だったが、容疑者とみられる男が、直子さんの自宅近くの防犯カメラに映っており、右手には軍手をつけ、左手にはテープのようなものを持っているような姿がそこにあった。
次なる決め手は、防犯カメラのリレー。
当時、容疑者は東京都内のマンションに住んでいたが、警察は、東京から高槻まで“防犯カメラのリレー捜査”を行い、高井容疑者の足取りを追った。
直子さんの自宅前を通過していれば映っているはずの防犯カメラに映っていないことから、現場に入ったという確信を持った。
さらにもう一つの決め手は、状況証拠の積み重ねだ。
当初は、酒好きな被害者が風呂場で転んで溺死した事故の線も考えられたが、調べて行くうちに不可解な点が幾つも浮かび上がって来た。
まず、室内には現金70万円が残されており、強盗目的ではないとみられた。
もう一つ怪しまれた点は、腐敗した遺体の右手首に結束バンドがあったことだ。
よく調べると、左手首にも結束バンドの跡が見つかった。
決定打は、ビールの空き缶がたくさん残されていたものの、直子さんの体内からはアルコールが検出されなかったことだ。
薬物も検出されなかった。
これらのことから警察は「事故に見せかけた殺人の疑い」と判断した。
自殺を図り心肺停止から死亡へ
9月1日午前7時2分大阪・福島警察署の留置所居室において、ヒモのようなもので首を吊っている凛容疑者を警察官が発見した。
凛容疑者は心肺停止状態で病院に緊急搬送され、治療を受けた。
取り調べでは黙秘を続ける中、容疑者が雑談で「逃走を考えている」と漏らしたり、2日前の30日には、ノートに挟まった自殺をほのめかす便箋のメモが見つかっており、看守の様子を窺うなど不審な点が見られたため、警察は「特異被留置者」に指定し、夜間の巡回を増やしていたという。
しかし、大阪府警留置管理課がメモの存在を知ったのは9月2日になってからだった。
発見の18分前、つまり6時44分の巡回では異常はなく、容疑者が布団で寝ているのが確認されていた。
病院のICUで治療を受けていたが、1日午後10時21分ごろ死亡が確認された。
首を吊ったヒモのようなものは、Tシャツの裾を裂いて切れ端を組み合わせたものだった。
司法解剖の結果、容疑者は一度蘇生したものの、その後の脳症により死亡したという。
被疑者が死亡し、殺害方法など事件の真相は藪の中へ消えた。
警察は当初、アルコールか薬物で眠らせて溺死させたと見たが、直子さんの遺体からはアルコールも薬物も検出されなかった。
溺死させるには3分以上顔を水に浸け続けねばならず、抵抗されずにそれがなぜ出来たのかが謎のまま残された。
それにしても容疑者が留置場内で自殺するなんてことはあってはならないことだ。
警察の大いなるミスと言わざるを得ない。
まとめ
2021年2月、大阪府高槻市の高井直子さん(当時54)と養子縁組する際、養子縁組届を偽造し高槻市役所に提出した疑いで逮捕された高井凛容疑者。
同年7月、直子さんは風呂で溺死。
右手首には結束バントが巻かれ、さらに左手首にもバンドを巻いて圧迫されたような跡があり、体の一部にうっ血もあった手首に結束バンドの跡らしきものがあったことや現金70万円が残されたいたことから、警察は強盗目的ではない殺人事件として捜査。
同年8月25日、高井凛容疑者が高額の保険金目当てで高井さんを殺したとみて容疑者を逮捕した。
だが、容疑者は雑談には応じても事件については黙秘を続け、留置場で自殺してしまった。
被疑者死亡で、不起訴となり、事件真相は永遠に藪の中となってしまった。
関西の名門私大を卒業し、外資系コンサル会社を経て外資系大手保険会社で高収入を得ていた容疑者が、なぜ堕ちていったのかを探ってみた。